趣味の悪い紫のミニバンには助手席に玖珂、あたしと鴇羽が後ろに座っていた。 「ごめんなぁ結城さん・・・うちの助手席はなつきだけのもんやさかい」 「いや乗りたいなんて言ってな」 「本当ごめんなぁ、堪忍なぁ」 なんか訳もなくプライドが傷つけられた気がするのはなんでだろう。ムカつく。 静留さんとドライブ☆2 〜車の中で一人リサイタル編〜 「ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜ぴぴるぴるぴるぴぴるぴ〜♪」 藤乃の運転する車の中では得体の知れないアニソンが一曲リピートで垂れ流されていた。もはやあたしですら「なんでもできちゃうバット♪エスカリボ〜ルグ〜」と口ずさめる。 「ちょっと、あんた他に曲ないの?こればっかかけてるじゃない、気ッ色悪い」 「なんだと貴様!」 「どうしてアンタが怒んのよ」 「いや、何となく・・・・」 「あらあら。うちこれ聴いてるとなんでか落ち着いてしまうんよねー。ダッシュボードの中にぎょうさんCDあるさかい、適当に見繕って流しておくれやす」 私は「静留’S BEST 2006〜summer〜」というCDを選び、プレーヤーに入れた。 ・・・・パ〜パァ〜パパパパァ〜パパパァ〜♪ なんかすごい・・・演歌?と思ったらこれどっかで聴いた気がする。映画の歌・・・ああそうだ「黄泉がえり」。 と思ったと同時に藤乃が 「愚かに生きてましたー!でも幸せでしたー!恋は〜生き急ぐものォオー!」 とすさまじい形相でサビを熱唱しだした。バックミラーに映る赤い瞳は心なしか涙目だ。完全に自分の世界に入っている。 ドンびきだ。藤乃以外は完全にドンびき。みんな心なしか伏し目がちになっている。 「ちょ、玖珂、次!次の曲!」 「あ、ああわかった」 ドスのきいたこぶしに圧倒されながら玖珂が慌てて早送りボタンを押した。 ♪No good to have lots of beautiful things, because I'm scared to lose them・・・ やたらポップな歌いだし。あ、これ聴いたことある・・・。 「矢井田瞳だ〜あたしこの歌好きだよ、『my Sweet Darlin’』だっけ」 と鴇羽が嬉しそうにはしゃいだ。やっとドライブっぽい曲がかかったのでほっとする。 がしかし。 藤乃がおかしい。 どう見てもおかしい。 ってか隣の助手席に座る玖珂をガン見。 とてもにこやかだがすごい勢いでガン見。 「ちょっちょっアンタ前見なさいよッ!危ないでしょうがぁあ!」 「ぎゃあぎゃあやかましいわ」 「いやっ会長さん運転中ですから!私たち運命共同体ですから!」 と同時にサビになり、またも藤乃が熱唱しだす。相変わらず玖珂をガン見しながら。 「ダリダリーン!ここに来〜て♪見えるでしょうあたしがぁ〜あぁダリダリーン!あの日のキス忘れたーふりするなぁらダリダリーン!横顔はもう飽きたこっち向いてぇえ〜えーえ〜♪」 やたらノリノリで無駄にうまいのが不気味さに拍車をかけた。 視線の先に居る玖珂はというと。 「・・・が、がー!くがぁー!がぁー!!」 必死で狸寝入りを決め込んでいる。バレバレなのに一生懸命すぎて、さすがのあたしでもちょっと涙が出そうだ。 「頭痛い・・・・」 目的地に着くまであとどのくらいなんだろう。 あと何曲この女のリサイタルを聴かされないといけないわけ・・・。 |
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