いまいましい紫女のワンマンライブに時々合いの手を入れさせられたりしながら、二時間が経過。
 そろそろお腹も空いてきた。
 頭は相変わらず痛い。
 なんていうかこの京女も痛い。
 叫んでもいいですか。

 助けてよママアァーーーーーーーーーーッ!


静留さんとドライブ☆3・完結編
〜カルビと花火と不法侵入〜



 「着きましたえ」
車が停まった。降りてみるとそこはいつの間にやら山あいのド田舎だ。
「どこよ、ここ」
「いいから手伝え」
玖我が車の後ろからゴソゴソと何かを引っ張り出してきてあたしに持たせた。
「なにこれ」
渡された重い箱にはハッキリこう書いてある。「こだわり練炭」。
 人気の無い山中。車。そして練炭。顔からすーっと血の気がひいていくのがわかった。
「スミマセン・・・・自分、集団自殺はちょっと・・・・」
「?何を言っているんだお前。とっととこっちへ運べ」
玖我たちはシダに覆われた山道をわしゃわしゃと分け入っていく。仕方がないのでついていくと、目の前を覆う木々がだんだんと開けてきてサラサラと水の流れる音がする。
「え・・・・ここって」
たどり着いたのはだだっ広い河原。澄みきった立派な渓流が流れている。
「今からここでバーベキューどす。綺麗な河原でアウトドアなんて、夏休みの定番ですやろ?」
京女はにこにことバーベキューセットを組み立てている。鴇羽はクーラーボックスから野菜と肉を取り出した。ご丁寧に、すぐ焼けるよう切ってまである。
「さぁ焼きますえ!燃えて燃え尽きるんどす!」
「ああ、練炭がな」
玖我は「早くセットしろ」と言わんばかりにこちらを見る。
「ハッ、なーんであたしがバーベキューなんか」
「結城さんはお腹空かへんの?」
「あんた達と仲良く肉つつくくらいなら飢え死にしたほうがマシ」
「そうか・・・そうなんか・・・」
藤乃はうなだれた。手には火のついたチャッカマンがメラメラと燃えている。
「せやったらその練炭はみんなのいる車内で燃やしましょか・・・」
「あーアタシなんか急にお肉食べたくなってきたかも」
「そうだろう、奈緒、そうだろう」
「さっ会長さん、野菜とお肉焼きましょう!お肉!」
がぜんバーベキューにやる気になったうちらは、必死で焼いた。肉と野菜を。そりゃあ焼いて焼きまくった。あたりにはすっかりいい匂いが広がって、不覚にもそこそこおいしかった。仕方ない、カルビに罪はないんだから。あたしは自分にそう言い聞かせながら焼きあがったアツアツの肉をほおばった。


 食事も終わり、片付けて車に戻ってきた頃には陽もすっかり傾いていた。
 バーベキューの火が料理オンチの玖我のせいでなぜか山火事になりかけたり、藤乃がまっ裸で川で泳ぐことをみんなに強制してきたり、鴇羽が「私、鴇羽舞衣は胸を張って歩くのだ!」と言いながら根拠のない自信に溢れた先導でみんなを山道に迷い込ませたりしたりしたが、この際全て目をつぶろう。ていうか思い出したくない。
 「もういいでしょ?バーベキューにも付き合ったし。日も暮れるからさっさとあたしを家に帰しなさいよ」
車のボンネットをバンバン叩きながら藤乃に抗議する。
「ふふふ、まだあかん。最後にとびっきりのお楽しみ、残ってますさかい」
「・・・・・よもやまだ練炭を」
「集団自殺から離れよし」
「じゃあ何するってんのよ!?」
藤乃は運転席に乗り込んで後部座席を指差している。
「すぐにわかりますさかい・・・・な!?」
まったくこの女の不敵な笑みには逆らえない。あたしはしぶしぶ車に乗り込んだ。

 車はどんどんと山奥へ進み、どうやら上へ上へと登っているようだった。一時間くらいしたろうか。あたりはすっかり暗くなってしまっている。明かり一つ無い山の闇は濃い。
「さぁ、いよいよやねぇ」
車が停まったところは高台にある広場だった。遊具やベンチが申し訳程度にひっそり置いてある。広場の奥へ進むと低い手すりの向こうにキラキラした宝石のような明かりが無数に散りばめられていた。
「すご・・・これ、街の夜景?」
「綺麗ですやろ。ここ穴場やけどええスポットなんよ」
「あ、そろそろ時間ですね」
鴇羽が腕の時計を見ながら言う。
「時間・・・・!?」
そう呟いた途端。
ひゅ〜〜〜〜〜・・・ぱんっ。
目の前に大きな花火が咲いた。
ぱん、ぱん、ぱん、と次々に広がる花びら。赤。白。黄色。鮮やかなきらめきが私の虹彩を刺激する。
「・・・・・きれい。」
言葉がぽろりとこぼれた後はっとした。恥ずかしくなって思わず口をおさえる。
「ええ、そうですやろ」
はんなりと藤乃が微笑む。
「結城さんに喜んでもらえて、うち嬉しいわぁ」
「なっ・・・・花火なんかで喜ぶかっつーの、ガキじゃあるまいし」
「すごいぞ静留!おおっ今度は文字だ!文字が浮かび上がったアァーッ!」
「・・・・・・・・ガキがいた。」
「まぁまぁ奈緒ちゃん」
鴇羽がそばによってきてこっそりと耳打ちしてくる。
「会長さんたちね、あんなこと_____蝕の祭りが終って以来、奈緒ちゃんに少しでも罪滅ぼしができないか悩んでいて。それで少しでも楽しんでもらおうって、せっかくの夏休みだし、この企画を考えたみたい。まぁ、この二人だけじゃいろいろと不安だからあたしもついてきたってわけだけど」
今だけはこいつに礼を言いたい。山中にあたしと玖我と藤乃だけになったら。それはうさぎの群れの中に狼を解き放つがごとし_____
「いや、料理のサポートとかね!?そんな意味じゃないよ!?」
あ、そうなんだ。
「とにかく、そんなわけだから。あんま怒らないでいてあげてよ」
こんな風に言われたら、なんだか怒鳴る気も失せてくる。ずるいやり方。
 私は空に咲く大輪の花々を見つめた。花火なんか見たの、いつぶりだっけ。ふとまだ小さかった頃、母さんと一緒に見た花火大会の風景を思い出す。
「まぁ・・・・・花火に罪はない、か」
 あたしは頬がほころぶのを藤乃たちに気づかれないよう、手すりの上で頬杖をつきながら、散っていく花びらをいつまでも見てた。



 数日後。
 今日こそはこのまえ見逃した映画を見に行こう。あたしは玄関先で靴ひもを結びながら、バスで映画館に着く時間を計算したりしていた。その時。
「ピーンポーン」
呼び鈴が鳴る。こんな時に来客か。早く家を出たいってのに。すると玄関の向こうからザワザワ声が聞こえる。
「結城さん、おるかしらぁ」
「大丈夫だ、あいつ暇そうだし」
「奈緒は私以外に友達いないぞ、ん!」
「ちょっと命、あんた結城さんにそんなこと言っちゃダメよー?」
 ・・・・・・・・・頭痛ふたたび。
 あたしは静かにかつ迅速に居間へ引き返し、家中の戸締りをチェックし、椅子やらミニテーブルやらを玄関ドアの内側へ、そっとバリケードのごとく設置。
「映画・・・もう公開終るけど・・・いっか・・・」
あたしはふらつく足で二階の寝室へと戻る。今日はもう寝よう。一日中寝て過ごそう。
ふすまを開けた。
 四人の女がのんきに茶なんか飲んでいる____ってか先日よりも明らかに一人増えてるよね!?
「いやぁぁあママァーッ!」
「いやとはなんだ奈緒、失礼なヤツだな」
「うふふ、嫌がる結城さんもオツなもんやねぇ」
「あ、奈緒ちゃん。お邪魔してまーす」
「遊びに来てやったぞ!ん!」
「もうおめぇら何なんだよ!毎度毎度どっから入ってんだよ!怖いんだよ!」
「え、お母さんに裏口の鍵もらったから」
「あンのババアァァァァァーーッ!!」


あたしは見落としていたのだ。その日居間に置いてあった書き置きを。
「ママは町内会の温泉旅行に行ってきます。奈緒もお友達と楽しんで行ってきてね☆」



・・・・・・・・ママ、逝ってきます。


〜了〜

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