「なんだその格好!」 部屋に入るとシズルは奇妙ないでたちでソファに座っていた。 「ああ、これな」 くすくすと思い出し笑いをするシズルが羽織っているのは真っ黒なマント。どう見ても私服ではなさそうだ。 「今日ハロウィンですやろ。コーラルの子達が仮装パーティーする言うてはしゃいではって・・・・ばったり会ったアリカさんに着せられたんよ」 そう言ってシズルは立ち上がって腕を挙げてみせた。黒い布がバサリとひるがえってマントの赤い裏地がひらひら踊る。 「ああ・・・・ドラキュラの仮装か」 宙に舞った漆黒のマントはシズルの体に見事着地した。すらりとした長身をくるみこみゆらゆらと揺れている。ただの黒い厚布がどことなく気品をかもし出しているように見えるのは、シズルのたたずまいによるところが大きいのだろう。 こちらに歩み寄りながらシズルがにこにこと尋ねる。 「似合いますやろか」 「ああ、悪くはない」 途端、シズルに抱きつかれた。 「!?___ちょ、」 「おとなしゅうしてな。うち今、吸血鬼なんよ」 シズルの手が私の首筋の髪をそっとかきわける。ひやりとした柔らかい手の感触。 「ナツキの首、雪みたいに真っ白やわぁ。噛み付いたらおいしそやねぇ」 首筋を見つめながらしみじみと言うシズル。まったくどこまで本気かわからない。 「馬鹿、やめろ」 シズルが私の首に顔を近づけた。湿った息がかかって喉もとがこそばゆい。肌の上に犬歯があたる硬い感触があった。 「痛!」 思わず身をよじって逃げた。 「あらぁ、堪忍な」 「お前・・・噛んだな」 「堪忍堪忍。でも痕なんてほとんどついてませんえ。安心しぃ」 謝りながらさもおかしそうな顔。 「シズル!」 アハハと笑う声。私はカッと血が上った。またいつものかわかわれ方、まんまと罠にはまってしまった・・・・・・と思いながら。 「全くお前というやつは!いたずらもたいがいにしろ」 「ほなおやつ」 「は!?」 シズルは私の鼻先に手のひらをぐっと差し出し『チョイチョイ』とジェスチャーした。 「おやつおくれやす。『Trick or Treat』、モンスターに言うこと聞かせるんやったら、おやつが要りますわ」 「お前・・・!」 にこにこと愉快そうなシズルの表情が私の顔をひきつらせる。 ポケットをまさぐってみるも当然飴一つ入っていない。 「くれへんのやったら・・・やめられませんなぁ」 シズルがいたずらっぽい笑みを浮かべる。 「まぁ『甘いもの』やったらなんでもええんやけど____」 そう言い放ったシズルのねだるような目。 「さぁナツキ。選びよし」 私の首元に再び顔を近づけるシズル。彼女の色素の薄い髪が鼻先をくすぐり、甘い匂いがした。 「おやつといたずら、どっちがええの?」 嗚呼、とんでもない吸血鬼だ。ガルデローベには恐ろしい魔物が住み着いている・・・・。 血など一滴も吸われていないのに、私はくらくらと眩暈がした。 これにまつわるプチエピソードはこちら |
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