「あ〜さもぉ〜やのぉーなかぁーんつーづぅうくぅーしぃろぉーいみちぃ〜んにゃ」 こぶしのきいた「pastel pure」が放課後の薔薇の館にこだまする。まさにホゲ〜。 「あの名曲パスピュアをあそこまでどどいつ調に歌えるのは・・・・」 「そうよ、祐巳、ロサ・ギガンティア以外にいらっしゃらないわ」 廊下からギシギシという足音とともにホゲ〜な御歌が近づいてくる。ガキ大将、カミングヒア。 ドアがバン!と開け放たれたと同時に何故か首からサックスをさげた聖さまはこう言った。 「ジャズやるべ♪」 アンタの歌、めちゃめちゃ演歌だったし。 〜Swing Yamayuries〜 「いや〜先週DVD借りてきてさーはまっちゃってねーあれ。『Swing Girls』。超サイコー。チョベリグー。」 この人古っ。今さらオヤジのリアクションはスールでスルーします。 「で、何をやらかすおつもりなのですかお姉様」 志摩子さんが「あーまただよこの電波」という表情をちっとも隠さず質問する。 「いや、だから、ジャズやるべ。」 「誰が?」 「山百合会で」 帰っときゃよかった。 「却下。はーいみんな聖とかシカトでいーから早く仕事戻って」 パンパン手を叩きながらロサ・キネンシスがみんなに席に戻るようにうながす。手馴れてらっしゃる。さすが腐れ縁。 「何でだズー」 「私たちトランペットとかドラムとか演奏できないわよ。やるメリットがあるわけじゃなし。吹奏楽部にでも言って頼み込んできなさいな」 「いやだズー。やろうよズー。」 「いや、その山形弁無理あるでしょアンタ。なんでも語尾にズーつけりゃいいと思うなズー!」 注意しているのかむしろギャグにのってるのかさっぱりわからないロサ・キネンシスとロサ・ギガンティアの掛け合いにエブリワンフィールヘッドエイク。とにかく頭が痛いですマリア様。 志摩子さんはどこからかすでにバファリンを用意していた。半分はやさしさでできている。おそらく常用しているのだろう。 そのとき、最も口を開いてはいけない人物が口を開いた。 「・・・・・おもしろそうじゃない。」 しまった。ブルータスおまえもか。内なる敵はこちらにあり。鳥居江利子こと、スッポンの江利子がいやがった。 「んだずぅうう〜〜〜〜!!?おもしろそうだずぅ〜〜〜〜〜!??」 聖さまがここぞとばかりに助長する。やばい、この流れは。 なんだかんだいって結局「スウイング・ヤマユリーズ 第一回会議」を開くことになった。 「凸とアメリカ人がつるむとやっかいだから、さっさと適当に会議開いて満足させて終わらせちゃいましょ。明日になれば飽きるわよ」 という蓉子様の的確な提案によりとりあえず会議だけでも開いてあげることにした。 「はーい、じゃあ今回の議長は私サトーセイがやらせていただきやーす。はい全員スタンディングオベッ」 横から蓉子様がいきなりアイアンクローをくらわせた。 「おまえ、あんま調子のんなよ」と小声で呟きながら。 超こえぇ。私もロサ・キネンシスになるためにはあれくらいの技を習得しなければならないのだろうか。 「・・ちょっと待って・・・ゲフンゲフッ・・・あー、なんか鉄の味がする。はい、じゃ始めます。まずは配役から」 どこからか持ってきたホワイトボードに「サックス、ドラム、トランペット、ピアノ、トロンボーン」と書いてある。 「まず私佐藤聖は主人公がいいのでセッ・・・サックスをやらせていただきます。異議のある方―」 はいはいありません決定ですーとみんなが適当に流す。早く帰りたい。 「じゃあ次にドラムですが。これは・・・・髪形がちょっと似てるから蓉子ね」 「ちょっと待ちなさいよ私ドラムとかやったこ」 「ちなみにイノシシとかお尻で殺してもらいます。これは大変危険な役ですけど頑張ってください。ちなみに『スウィング・ヤマユリーズ』の目標は『1. CGを使いません2. ワイヤーを使いません3. スタントマンを使いません4. 早回しを使いません5. 最強の格闘技ムエタイを使います』です。蓉子ファイッ!!」 ロサ・ギガンティア、それって映画ちがくね? 拳を鉄びしの形に握りなおそうとするロサ・キネンシスをお姉さまが必死で止めた。 水野さんすっとばす。もはや半泣きだ。 「じゃあ次はトランペット・・・・これ、どうすっかなぁー。志摩子やってみない?」 「お姉さまがおっしゃるなら」 にっこり笑って志摩子さんは快諾した。 「オッケ。じゃ、このトランペットためしに吹いてみ」 差し出されたトランペットをおずおずと手に取る志摩子さん。口をそっとつけてみる。 「ぷおーーー」 すごいすごいすごいすごいすごいすごいすごい鳴ったのがじゃなくて銀杏の臭いが。 何これ。ありえないこのにおっうわまた臭ってきたこれ 「ぷおーーーーーーーー」 顔を真っ赤にしてトランペットを吹き続けるフランス人形。 拡散される銀杏の口臭。 刺激される私たちの鼻腔。 夕暮れの明かりが彼女の赤い顔をますます赤く照らしつける。 赤い。 もうなんか東京タワーよりも赤い。 感動のせいなのか、刺激臭のせいなのか、志摩子さんの緋色の横顔を見ながら涙が出てきた。 臭いと音と光の競演。 嗅覚と聴覚と視覚____かつてこれほど五感を陶酔させる総合芸術が存在しただろうか。 いや、ない。 あってたまるか。 「ごめんしまことめてしまこ「ぷおーーーーーーー」 必死に叫ぶロサ・ギガンティア。 しかしその声はトランペットの咆哮に掻き消される。 やむを得ずロサ・ギガンティアはクロロホルムの染み込んだハンケチーフをポケットから取り出し、背後から志摩子さんの鼻に当てる。 必死で鼻呼吸を繰り返していた志摩子さんはすぐに倒れてしまった。 「テロだわこりゃあ」 そういいながら気絶した志摩子さんの手からトランペットをとり、たてぶえの要領でなめようとしたところをロサ・キネンシスが横から助走を十分につけたジャンピングエルボーで阻止した。 「あれ蓉子私なんか腕が関節じゃないところからぐいんって曲がってるよこれ?・・・・じゃあとりあえず志摩子のトランペットは却下。これを密室の音楽ホールなんかで演奏した日には地下鉄サリン事件以上の悪夢を招きますんで。とりあえずトランペット担当は保留。次はピアノです」 「あ、だったらもちろんうちのおね」 言いかけた私を「貴様何ぬかしとんじゃボケ」というお姉さまの視線がつき刺す。 祐巳、にらまれた顔から血が噴出しそうです。 「あ、そういや祥子ピアノ上手かったよね。はい決定」 その瞬間お姉さまがかすかにすすり泣きを始めた。 「こんなことのためにピアノ弾くのだけは勘弁してください・・・・」 うわごとのように繰り返している。悪いが連弾はしたくない。 「じゃあ次にトロンボー・・・はぁッッ!!」 「何?何ですかそのわざとらしい驚きのリアクションはロサ・ギガンティア」 「・・・眼鏡よ」 「はっ?」 「眼鏡よッ!山百合会には眼鏡分が不足しているのよッッ!!『スウィング・ガールズ』でトロンボーン担当・関口さんのような良質の眼鏡ッ子が存在していないのよ!!しまったぁああああああ!!!!」 良質て。関口さんは天然資源か。 「あぁぁぁあああどうしよう!眼鏡ッ子不在では『スウィング・ヤマユリーズ』の完成は有り得ない!!こうなったら眼鏡をかけさせるか?・・・ダメッそんななんちゃって眼鏡はダメ!!本物の、選び抜かれた眼鏡ッ子が求められているのよ!!」 とうとう「次の選挙では令を落として眼鏡ッ子を入れよう」とまで言い出す聖様にむやみにビクつきはじめる令様。黄薔薇ってかわいそう。(切実) 「あ・・・・」 その時聖さまの目が輝いた。 「祐巳ちゃん!由乃ちゃん!カメラちゃんを連れてきて頂戴!」 「そうかロサ・ギガンティア、蔦子さんなら眼鏡かけてますね!」 「そうよ!さすが今野!萌えポイントを逃しちゃいないわよね!!」 10分後、おびえる蔦子さんを私と由乃さんとロサ・ギガンティアの3人で捕獲に成功。薔薇の館に連れて帰る。 「何なんですかッ?わかった!先週ロサ・ギガンティアがTUTAYAの18禁コーナーで『盗撮ドットコム』借りるところ撮ったからですか?その後ロサ・フェティダの家で鑑賞会やってるところを撮ったからですか?なんだかんだいってその後ロサ・キネ」 「早くいいから吹きなさいトロンボーン」 「・・・・・はい」 つえぇ。ロサ・キネンシス超つえぇ。ていうか見たんだ。一緒に。「盗撮ドットコム」。 「・・・・・音、鳴りませんよ」 「そりゃあそうだよねぇ。楽器鳴らすのでさえ初心者には至難の業なんだから。やっぱすぐには無理かー」 やっぱりこれじゃあ長くかかりそうだなぁ・・・・と凹んでるロサ・ギガンティアを目のあたりにして私たちは密かにほくそ笑んだ。 この調子ならすぐに飽きてしまうだろう。その日は案の定そこで会議終了。お開きとなってしまった。 数日後。 「おぉーれぇーおーれーーちゃらちゃっちゃ!サトセイさーんばーおぉれーおぉれぇーサトセイさぁあんばぁああ」 不吉なお歌が薔薇の館にこだまする。ホゲー再び。 「お姉さま・・・・これって・・・」 「祐巳・・・・」 みんな展開が読めたのか、すでに涙目です。 ドアがバン!と開け放たれたと同時にゴールドラメの着物姿の聖さまはこう言った。 「サンバやるべ♪」 志摩子さんはすでにバファリンの瓶を傾けて一気飲みしていた。 |
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